【土壌分析】分析結果が「N.D.」なら安心?:分析結果の下限値について

弊社で取り扱う水や土壌、産業廃棄物の分析結果には、「N.D.」という表記が多く出てきます。分析項目や分析方法によっては、「不検出」や「零」などと表記されることもありますが、これらは「0(全くない)」ではありません。今回は分析結果の下限値について取り上げます。
分析の結果で「0」は有り得るのか?
環境分析の分野では、水や土壌、産廃といった様々なものを分析します。実際の分析は、定められた分析方法に則り、様々な分析機器や装置を使って結果を出します。
ここでポイントとなるのが、「どれだけ高性能な機器や装置でも、あらゆる物質を無制限に低い濃度まで測定することはできない」という点です。各機器や装置には、測定できる最小の数値(閾値)が必ず存在し、物質の存在を確認できる濃度や、数値精度を担保して測定できる濃度に限界があります。
したがって「その物質が全くない(0である)」という分析結果を保証できません。そこで登場するのが下限値の考え方となります。
下限値について
上記のように多くの分析で「0」を保証することができないため、「0ではないがそれに最も近い数値」として下限値が設定されていることがほとんどです。多くの場合、「下限値未満」がその分析結果の最小値として扱われます。下限値は分析方法そのもので規定されている場合もありますが、分析方法にて明確な規定がない場合でも、利用する機器や装置の性能に合わせて各機関にて独自に設定しています。
したがって、同じ検体・同じ項目の分析であっても、分析方法や分析する機関が異なれば、下限値も異なる可能性があります。弊社では「N.D.(Not Detected:不検出)」という表現を主に用いていますが、「不検出」「零」「下限値の数値未満」などと表すこともあり、表現も多彩です。これらの表記は法令や分析方法によっては「下限値未満の場合は○○と表記すること」と決まっている場合もあり、表現を統一できない部分があます。
検出下限値と定量下限値について
下限値には主に「検出下限値」と「定量下限値」があります。これらの違いは以下のようになります。
・検出下限値
分析対象となる物質が存在していることを、一定の信頼性をもって確認できる濃度の下限を指します。各分析方法や測定機器・装置において「物質が存在していると判断できる限界」の数値となります。
例えば、検出下限値が0.01mg/Lの分析においては、それ未満の濃度についてはその物質の存在自体を明確にできないことを意味しています。
・定量下限値
分析対象となる物質の濃度を、一定の精度で数値として求めることができる下限を指します。各分析方法や測定機器・装置において「物質の濃度を信頼できる数値として示せる限界」の数値となります。
例えば定量下限値が0.1mg/Lの分析においては、たとえ装置の性能で0.01mg/Lまでの数値がみられたとしても、数値精度の信頼性を十分に担保する上では、0.1mg/Lが正当であることを意味しています。
対象物質の存在証明の限界が検出下限値、対象物質の正確な濃度保証の限界値が定量下限値となりますので、一般的には「検出下限値<定量下限値」となります。(一部分析方法では、「検出下限値=定量下限値」となることもあります。) そのため、「”定量”下限値未満」という結果は、「実は微量に物質の存在は確認できるが、濃度として正当な保証はできない」という意味の場合もあり得ます。
この検出下限値と定量下限値の考え方は、各分析方法や関係法令、分析機器・装置の性能や分析機関の考え方などの要因が絡み合っていますので、全てが一律ではありません。例えば、同じ「不検出」という表現であっても、「検出下限値」を示す場合と「定量下限値」を示す場合があります。
自身が得た結果が検出下限値未満なのか定量下限値未満なのか、そして具体的にどの数値未満であるのか、を把握することは分析の結果を「知る」のに大変重要です。
基準値と下限値について
分析結果において下限値と混同しやすいのが基準値です。基準値は各法令や規定により定められた基準の数値であり、汚染の有無の判断などに用いられる数値です。例えば土壌汚染対策法には、溶出試験で27項目、含有試験で9項目の基準値が規定されていますが、これらの項目の結果がこの基準値以下であれば、その物質による汚染はない(その可能性は低い)と判断されます。判定の基準として利用する数値ですので、直接分析の結果に関わる下限値とは、字面は似ていても性質は異なる数値となります。
もしある物質の分析において、定量下限値が基準値よりも高い場合、その結果は基準値よりも高いのか低いのか判別することができません。そのため下限値は基準値よりも低い数値であることがほとんどです。(万が一、基準値よりも下限値の方が高い結果を得た場合、分析を実施した機関へ問い合わせてみる方がよいかもしれません。)
分析結果の判断のポイント
今までの説明を簡潔に図示すると以下のようになります。

【具体例1】土壌環境基準 溶出試験 クロロエチレン
基準値:0.002 mg/L
下限値(定量下限値):0.0002 mg/L
結果:N.D.(定量下限値未満)

結果がN.D.(定量下限値未満)となりますので、定量下限値である0.0002mg/L未満ということになります。基準値を下回ることはもちろん、結果としての数値が出ない形となります。しかし前述のとおり、定量下限値未満は0を意味するものではありませんので、「全くない」という結果ではない点に注意が必要です。
【具体例2】土壌環境基準 溶出試験 鉛及びその化合物
基準値:0.01 mg/L
下限値(定量下限値):0.001 mg/L
結果:0.005 mg/L

結果が定量下限値である0.001mg/Lより高い0.005 mg/Lとなっています。結果として数値が出る形になりますが、基準値である0.01mg/Lは超えていませんので、基準値内の結果となります。多くのケースで「鉛の汚染は少ない(ない)」と判断される結果と考えられます。
結果として数値が出た場合でも、基準値は下回る場合も多くありますので、数値が出ても焦らず、下限値や基準値とよく比較し、結果数値の意味を正確に把握することが重要です。
【具体例3】土壌汚染対策法 含有試験 セレン及びその化合物
基準値:150 mg/kg
下限値(定量下限値):15 mg/kg
結果: 210 mg/kg

結果が基準値である150 mg/kgを超える210 mg/kgとなっています。基準値を超える結果となりますので、「セレンの汚染がある(おそれがある)」と判断される可能性が高い結果となります。基準値超過の項目がある場合、どのような対策を講じるかを事前に決めておくと、このような結果が出た際も冷静に対処できるかと思われます。
最後に
具体例を通して解説しましたように、分析の結果は、結果数値のみで何某かを判断できないことも多いです。
・「N.D.」や「不検出」という結果であっても、それは「0」を意味していないことがほとんどである
・具体的な数値が結果として出た場合、基準値と比較し、その結果の意味を正確に把握する
上記のような点に注意して、分析結果をみていただければと思います。
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